国立公文書館 企画展「ようこそ地獄 楽しい地獄」 さいごに-楽しい地獄

さいごに-楽しい地獄
摂津名所図会 寛政8年刊 外務省 267-0064

『摂津名所図会』(1796-98年刊)に見える合法ケ辻(合邦ケ辻とも。現在の大 阪市のうち)の閻魔堂。2372-1.jpg



諺草 元禄14年刊 特033-0003
空想上の地獄であれ、 現実の地獄であれ、 究極の苦しみを受けることに変わり
はありません。「地獄」は死や耐えがたい苦しみ、大きな苦境の比喰(たとえ)としても用いられました。
展示資料は、貝原益軒(『養生訓』の著者)の甥で 、益軒の養子となった貝原好古(1664-1700)が編集した『諺草』。 イロハ順に諺や俗語を並べ、それぞれ の意味や出典を記しています。展示資料は元禄14 年(1701) 刊。
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「地獄」を用い た諺として載っているのは、
一寸の地獄
船の床板一寸の下は危険な海。 船乗りの危険な仕事のたとえ。「一寸下は地獄」「板子一寸下は地獄」と同じ。「一寸先は地獄」は、すこし違います。
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一寸の地獄 俗に船に乗て水行する を一寸の地獄と云 風波の難はかりがたく至て危き事なれバ也朝野僉 載ニ云 船ニ乗リ馬ヲ走スル死ヲ去コト一寸諺こゝに出るにや


地獄もすみか
「住めば都」と同じ。
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地獄もすみか 荀子ニ云 越人ハ越ヲ安ンシ 楚人ハ楚ヲ安ンス これも人おの々々其住所を安んする事をいへり 諺の意と同し


地獄の諺といえば、ほかに「地獄の沙汰も金次第」「地獄で仏に逢ったよう」「地獄極楽は心にあり」などなど。「地獄の釜底の焦げ」というのもありますが、これは今日の「おこげ」ではなく、地獄の釜の底で焦がされるような極悪人のたとえ。



新増犬筑波集 和学講談所 202-0220
諺だけでなく、比験としての「地獄」は、暮らしの中にも浸透しました(今でも「借金地獄」「ローン地獄」「受験地獄」というようlこ広く用いられています)。
 松永貞徳の『新増犬筑波集』(1643刊、展示資料は写本)には、「恋の地獄」を詠んだ作品も。意訳すると。「心から恋していると告白したのに、貴女の態度は冷たい。焦がれる私の胸の炎は八万地獄のように燃えさかっている」
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八幡そ思ふといふにつれなくて
 かすのちこく (地獄)のもゆるむね(胸)の火
   八万地獄ト取成也
*取成付 前句の意味や語を、まったく別の意味に転じて付ける方法(連歌や俳譜連句の付け方のーつ)。
この場合は、 「八幡」(八幡に掛けて=誓って)と八万地獄(無間地獄のこと)の「八万」の取成付。





暁斎画談 明治20年刊 199-0028
 江戸時代、地獄はいつも不景気でした。理由は人間が賢くなって、みな極楽へ行ってしまうから!
 地獄が閑散として不景気なのは、実は江戸時代より前からで、 狂言の『朝比奈』 も、閻魔王が、
娑婆(現世)からやって来る亡者を一人でも多く地獄にひきずりこも
うと、六道の辻で待ち構えている場面で始まります(しかし、やってきたのは勇猛な朝比奈三郎。閻魔王は、逆に極楽への道案内をさせられるというお話)。
 幕末から明治にかけて活躍した画家、河鍋暁斎も、不景気になやむ地獄をテーマに戯画(コミカルな絵)を描きました。さて、どんな絵が完成したでしようか。 暁斎が描いた地獄はあわれそのもの。閣魔大王ほか地獄の王(十王)や役人 たちは、将来のない地獄を捨て極楽で就職活動をし、鬼たちは角を切り取って角細工の職人に売り、これまた極楽で飯焚きの職を得ようと必死です。
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視聴草 教部省 217-0034
 幕末の旗本、宮崎成身の随筆『視聴草みききぐさ』に享保年間(1716-36)に作成された落書(らくしょ・政治や社会を楓刺した匿名の文書)が収められています。題名は「地獄倹約」。地獄の鬼たちに節約、経費節減を命じ、あわせて極楽に対してもぜいたく禁止令が。三田村鳶魚が言ったように、地獄も極楽もオモチャにされ、おそろしくもありがたくもなくなっている様子がうかがえます。倹約に努める地獄の鬼なんて、 こわくないですね。
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鬼の銕の臼 無用たるへし 自今以後ハ野つら(野面) の石に可仕事
鬼たちは、盗みをはたらい 鉄の臼を用いているが(鉄製なんてぜいたくだ)。今後は野原にころがっている石を臼がわりに用いるように。

剱の地獄 侈り(おごり)ニ相見へ候 自今以後ハ竹ニて仕るへし 但し今迄有来分ハ其侭差置 重て仕直時 連々ニ竹ニ可仕事
剱の地獄(剣を植えた山)も、ぜいたくだ。今後は剣ではなく竹で間に合わせるように。とはいえ今まで用いていた剣はそのまま使い、漸次(だんだんに)竹に取り替えよ。

鬼共豹ト虎の皮の下帯ハ 茨木童子・石熊童子の外一切無用たるへし 下々の鬼共蜜々に法外之義於有之ハ屹度可責すへし 但し狸狐等之皮ハ苦るしからさる事
鬼たちはヒョウ皮やトラ皮の下帯(ふんどし)をしめてはならない。ヒョウ皮・トラ皮を許されるのは茨木童子や(酒呑童子の子分の)石熊童子だけ(ど ちらも著名人、ではなく著名鬼)。無名の鬼が違反してこっそりヒョウ皮を着用したときは、きび しく責めさいなむであろう。タヌキやキツネの皮のふんどしは、かまわないよ。

鬼共牛馬を食すへし猥ニ人を喰ふへからす
但 五節句又ハ閻魔王招請之時ハ格別之事
鬼たちは牛や馬を食べるべし。好き勝手に人間 を食べてはいけない。人間を食ぺていいのは、五節句や閻魔大王に招待された特別の時だけ。



ネタ化された地獄
今現在経験している「この世の地獄」がなかなかつらい。行ったこともない「あの世の地獄」がどうでもよくなるくらいに。相対的に「あの世の地獄」が怖くなくなる。いやむしろ、案外楽しいところじゃないかと。
こういう一種の逆転現象は、囚人(=地獄)と社畜(=現世)の比較を彷彿させる。これなら、囚人も悪くないなと。
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そうなってくると、地獄の権威は地に堕ちる。怖そうな閻魔大王はじめ鬼の面々も案外人間臭かったり、地獄の経営も現世のシステムと同様に採算を考えたりと妙に所帯じみてくる。地獄よいとこ一度はおいでチョイナチョイナ~♪
でもこれって、今生きている世界が地獄以上に地獄だからとすると、あんまり笑ってばかりいられないのかもしれませんね。
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