【理科教育法】学習指導要領の変遷 (4) 昭和44年改訂

昭和33年の改訂ではそれまでの児童中心主義・経験主義から大きく転換し、知識中心の系統学習をもとにする教育課程となりました。
そして昭和33年学習指導要領の背景には、サンフランシスコ講和条約により、日本がチーム西側の一員として冷戦に巻き込まれるという歴史がありました。

日本の属するチーム西側のボスはアメリカ。対するチーム東側の主将は「一方、ロシアでは」でおなじみ、ソビエト連邦(1922-1991)です。
米ソは1957年ごろから冷戦下で宇宙開発競争をやっておりました。宇宙技術は軍事技術にも転用できるものも多く、また、科学技術や文化の優位性を示す、簡単に言うと国のイメージや国民の誇り、もっと身もふたもないことを言うとメンツやプライドの問題でもあります。そんなことかと思うかもしれませんが、そんなことだからこそ、どちらも負けられないのです。

そんな中、ソビエト連邦が1957年10月4日、スプートニク1号の打ち上げに成功しました。「世界初の人工衛星」の名誉は、ソ連のものとなったのです。

その話を聞いたアメリカ合衆国をはじめとする西側諸国の衝撃、それがスプートニク・ショックです。
ちなみにスプートニク1号の打ち上げ成功後の、同年12月6日、アメリカも対抗してヴァンガードTV3を打ち上げようとしますが、リフトオフから2秒後にエンジンの推力が低下し、ロケットは燃料を満載したまま発射台上に崩れ落ちて爆発するという屈辱的な結果を迎えます。

ここからアメリカ政府はロシアに対抗するためには、科学技術を発展させる必要がある。それには学校教育を充実させよう、という話になるわけです。そうしてアメリカでは1958年国家防衛教育法が成立します。この法律では大学生への貸し付金、小学校や中等学校の理科、数学、外国語教育への助成、大学院研究奨励金、地域研究、職業・技術訓練の充実などがうたわれています。

そんな風に科学・技術革新を起こしてソ連に追いつけ追い越せという時代的要請のもと、教育に潤沢に資金が流れるようになります。そこにJ.S.ブルーナー『教育の過程』の影響もあり、とくに数学・自然科学教育のカリキュラムを改造する運動が急速に全米に広がっていきます。これが「教育内容の現代化」です。

そうしてできたのがPSSC物理、CHEMS化学、CBA化学、BSCS生物やESCP地学などです。イギリスでもナフィールド財団の協力のもと、高校の教師であるロジャースが中心となって「ナフィールド物理」が作られました。

そしてこれらの主な現代化プログラムの教科書は,日本にも翻訳・出版されています。
というわけで、うちの学校にもたくさんあるんだな。
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ESCPの地球儀は捨ててしまいましたが。

ナフィールドは物理だけじゃなく、化学・生物もあるでよ。
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こういうアメリカの流れの影響をモロにくらい、昭和44年の学習指導要領では、とくに算数・数学において集合、関数、確率などの現代数学の基本概念が導入されるなど、教育課程の「現代化」が図られたのです。
え、昭和22年の児童中心主義・経験主義の時もそうだったけど、アメリカのマネばっかりだって?それを言っちゃぁおしまいよ!





中学校学習指導要領 昭和44年4月

教育課程の構成
 小・中学校の教育課程は「各教科」「道徳」「特別活動」の3領域から構成される。(高校は「各教科・科目」「各教科以外の教育活動」の2領域)
 「特別活動」は、従来の「特別教育活動」「学校行事等」を整理統合したもの。
 中学校の「特別活動」、高校の「各教科以外の教育活動」で「クラブ活動」を必修化。
 授業時数を「最低」から「標準」に改める。



第4節 理  科

「基本的な科学概念を中心とする内容の再構成」「科学の方法の習得の重視」「内容の精選」の3つを基本方針として、学問中心のカリキュラム編成となっています。

基本的な科学概念を中心とする内容の再構成については、第1分野では,物質に関する事物・現象についての理解,第2分野では,生物とそれを取り巻く自然の事物・現象についての理解をそれぞれ深めるように,基本的な科学概念を中心として両分野を構成しています。

科学の方法の習得の重視については、教科目標や各分野の目標において,探究の過程を重視して,これを通して科学の方法を習得すべきであることを強調し,「指導計画の作成」では具体的な形で示しています。また,内容についても,測定,分類,モデルの形成などの科学の方法に関する事項を具体的にあげて,その徹底を期していいます。

内容の精選については、昭和33年版では内容が多岐にわたりすぎたという反省から、水の表面,水の精製,熱の移り方,力のモーメント,動力の伝達,音波とその伝わり方,音の性質,光の反射,電波とラジオ,生物資源,天然資源と化学工業などを削除し,水の重さと圧力,燃焼,酸・アルカリ・塩,光の進み方,光の屈折,気体の発生,交流,電子と真空管,風化作用と土,天気の変化,発生,遺伝,生物の進化,地表の歴史,地球,月などを軽減または集約化するなどしてきびしい精選を行ない、内容の小項目の数が、第1分野では210から121に、第2分野では208から92に激減しています。

なお、授業時数は各学年とも140時間で、33年版と変更はありません。

[第1分野]
(1) 物質の特性
(2) 気体の識別と物質の分離
(3) 力とエネルギー
(4) 光とレンズ
(5) 物質の三態
(6) 物質と原子
(7) 電流
(8) 物質と電気
(9) 電流と磁界
(10) 運動とエネルギー

[第2分野]
(1) 自然とその中の生物
(2) 生物の種類と生活
(3) 地球を取り巻く宇宙
(4) 生活活動のエネルギーと光合成
(5) 動物の物質交代
(6) 大気とその中の水の循環
(7) 流水のはたらきと地層
(8) 生物の反応
(9) 生物と環境
(10) 地かくの変化と地表の歴史
(11) 自然界のつりあいとその保護


各分野とも(1)から(3)までを第1学年,(4)から(7)までを第2学年,(8)以降を第3学年で学習します。

注目は[第1分野] (1) 物質の特性 

ア 物質の量 
 (イ) 測定には,誤差が伴うこと。

3 内容の取り扱い
 アの(イ)の「誤差」では,これと関連して有効数字についても取り扱う。


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教科書見ると1年生の最初に、有効数字の話が出ているんですよ。それも小数×小数の計算で有効数字の範囲がどこまでかとか説明されてるのです。これはきつい。理系の大学生でも正確に扱えない人が少なくないと思う。




高校では昭和45年10月に高等学校学習指導要領(昭和48年4月施行)が出され、
理科は「基礎理科」6単位、「物理I」「物理II」「化学I」「化学II」「生物I」「生物II」「地学I」「地学II」各3単位で、
すべての生徒は「基礎理科」1科目または「物理I」,「化学I」,「生物I」および「地学I」のうち2科目を履修します。



戦後で教育内容・時間の量が最大となった昭和44年改訂の学習指導要領。「教育内容の現代化」により小・中学校から濃密なカリキュラムに基づく高度な授業が行われました。例えば数学では集合とその利用、不等式の意味と解は高1から中1で扱うようになり、高3でやってた確率・組合わせなどは中2で、高1でやってた三次関数や逆関数は、中3で学習するようになりました。

ところが、授業が速すぎるため「新幹線授業」などと批判されたこれにより、授業のスピードが速い、「詰め込み授業」になれば、当然学習についていけない児童・生徒が出てきます。いわゆる「落ちこぼし」「落ちこぼれ」の登場です。すると「落ちこぼれ」の子どもがグレて「校内暴力」へ走る…という展開が起きるのです。

そういえば、「数学できんのが、なんで悪い!」というコピーで「高校大パニック」という映画をやっていたのもこのころだったかと。テレビのCMでしか見なかったけど、今調べたら10代の浅野温子がヒロインだったのね。

理科でもブルーナーの探究学習の重視により、マンネリ化してつまらない実験を繰り返すことや、日常生活とかけ離れた「学校理科」になって
理科嫌い・理科離れが生じるようになったのではないか、という批判が出されるようになりました。この批判は、今日の理科教育にも通じるものとして、厳粛に受け止めなければいけません。

それはともかく、日本の教育は、大切な何かを失ってしまったようです。その大切な何かを取り戻すために、次の学習指導要領でまた方向転換をするのです。



Check It Out!

○佐藤史浩 「詰めこみ教育」から「ゆとり教育」へ~1968・69年改訂学習指導要領と1977年改訂学習指導要領の検討~ 宮城学院女子大学発達科学研究 2015.15.47-54

初等・中等学校の理科教育  
「我が国の教育水準」(昭和39年度 教育白書)>第2章 教育内容の充実と能力の開発>3  科学技術教育>(2)  初等・中等学校の理科教育
PSSC,CBA,CHEMStudy,BSCS,ESCP、ナフィールド財団等の話題が記されています。
というか、これだけ古い白書がネットで普通に読めるってのもほんとにいい時代だなと。

佐藤三郎 教育内容の現代化とは何か-文部省科学研究費による”大阪市立大学生物教育研究プロジェクト”の概要の説明を兼ねて-
人文研究 19巻4号(1967)
60年代のアメリカの新教育課程プロジェクトの特徴について扱われています。

佐藤三郎 「教育の現代化」の問題状況 人文研究 25巻5号 pp.468-489 (1973)

加藤貞夫 アメリカの理科教育プロジェクト 名古屋大学附属中・高等学校紀要 第16集

川瀬八洲夫 J.S.ブルーナーの教育理論一デューイのあとに来るもの一 東京家政大学研究紀要第11集
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