【理科教育法】学習指導要領の変遷 (3) 昭和33年改訂

昭和30年代。日本は高度経済成長期へと入っていきます。昭和31年度年次経済報告(経済白書)「日本経済の成長と近代化」の結びでは、「もはや戦後ではない」と記述、この言葉は流行語になりました。
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日本がこれから大きく飛躍しようとする時期、これから優秀な人材がたくさん必要になってきます。そんな時期に、将来を担う子どもたちはというと、学力低下という大きな問題を抱えています。それは試案とはいえ、昭和22年の学習指導要領に基づく児童中心主義・経験主義の教育の影響と考えられ、関係者からの批判も噴出していました。

また、昭和26年といえばサンフランシスコ講和条約が締結されました。これによりGHQによる占領が終わり、日本は主権を回復したのですが、同時に東西の冷戦に巻き込まれていくことになります。
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ここで、高校で日本史を選択しなかった人のために少し解説を加えましょう。
サンフランシスコ講和条約は、第二次大戦を終結させるため、日本と連合国との間で結ばれた条約です。この条約の中身は、先に述べたようにりGHQによる占領が終わり、日本は主権を回復するほか、領土の放棄または信託統治への移管など、いくつかの項目はあるのですが、そこはおいときます。

問題は、この条約における「連合国」の範囲。米英仏などいわゆる西側諸国だけだったのです。つまり、一部の国とだけの講和だったのです。これを部分講和(多数講和、片面講和あるいは単独講和)といいます。これは独立した日本が西側諸国の一員となることを意味します。実際にこの条約と同じ日に日米安全保障条約も締結しています。

ちなみに、別の選択肢としては(講和しないという大胆な選択肢はないとして)、ソ連など社会主義国などすべて含めた全面的な講和というやり方もあります。この場合、米ソが冷戦をしている中で、非武装の厳正なる中立国家になるわけです。日本国内でも部分講和か全面講和か論争になりましたが、最終的に部分講和を選んだわけです。(連合国内で対立などいろいろな立場の違いがある中、現実的にすべての国と納得のいく講和ができるのかという問題もありますが)


そんなこんなで戦争が終わり平和だ!→民主化だ!となっていたのですが、ここら辺に来て、冷戦に巻き込まれ、国内でも保革の対立などがまきおこり、統制強化っぽくなっていきます。軍靴の音が聞こえてきそうですね。児童中心主義で自由にさせすぎて学力が落ちたので、やっぱり厳しく行こう、という見方もできますが、とにかく、昭和22年、26年の試案の揺り戻しがきたわけです。

どのように揺り戻しが来たのか、そこに昭和33年改訂の見どころです。



文部省発表 中学校学習指導要領 昭和33年(1958)改訂版

昭和33年に教育課程審議会の答申が出されました。答申のポイントは3つ、「道徳教育の徹底」「基礎学力の充実」「科学技術教育の向上」です。
それを受けて小学校と中学校は同年に、高等学校は昭和35年に学習指導要領が改訂されました。(なお高校は昭和31年と33年にも一部改訂されています。)

答申のポイントに対し、学習指導要領はどう対応したかに注目してみましょう。

「道徳教育の徹底」については
1.小・中学校に「道徳」の時間を特設、全ての学年で週に1時間実施されることとなった。
2.道徳だけ一足早く1958年より実施
3.高校に倫理社会(必修)を新設。
4.社会科を道徳の時間と関連づける。
→教育課程の領域が,従来の教科と教科外の2領域から ,各教科,道徳,特別教育活動,学校行事等の4領域 へと変更された(高等学校は60年改訂で教科,特別 教育活動,学校行事等の3領域となった)。

「基礎学力の充実」については
1.経験主義から系統的な学習へ
2.義務教育として小・中学校の各教科内容に一貫性を持たせた。
3.目標・内容を精選し、基本的学習を重視。
4.各教科及び道徳の「年間最低授業時数」を明示、義務教育の水準を維持。
 ※小学校に関しては,1学年ごとの授業時数が示された。(26年度版が斬新すぎたからね…)

「科学技術教育の向上」については
1.経験主義から系統的な学習へ
※系統的→筋道だてて考える→科学的思考の養成→そして技術立国へ…
2.算数・数学、理科の時間増・内容の充実
3.「職業・家庭科」→「技術・家庭科」

また、学習指導要領とは別ですが、昭和28年に『理科教育振興法』が制定されたこともあわせてチェックしておきましょう。
余談ですが、ある理科の先生の集まりで、予算がない話をしている中、前向きなところを見せようとして「予算がなくても古いものや身近なもので工夫してやっていきますよ」と言ったら、理振協会の人に思いっきり窘められました(笑)。

3つのポイントとは別ですが、
1.「図画工作」→「美術」
2.国旗掲揚,君が代せい唱の記載。

Ⅱ 中学校学習指導要領
第3章 道徳,特別教育活動および学校行事等
第3節 学校行事等
第3 指導計画作成および指導上の留意事項
6 国民の祝日などにおいて儀式などを行う場合には,生徒に対してこれらの祝日などの意義を理解させるとともに,国旗を掲揚し,君が代をせい唱させることが望ましい


そして、昭和33年版の大きな特徴として
「試案」の表記が消え、「文部省告示」として法的拘束力をもつようになりました。国家的基準national standardというわけです。それは昭和33年版学習指導要領がの10月改訂に先立ち、8月に学校教育法施行規則が一部改正、学習指導要領は教育課程の基準として文部大臣が公示するもので法的拘束力をもつと解釈されゆようにしたのです。

ところで、昭和29年に、公立学校の教育公務員の政治的行為の制限を定めた「教育公務員特例法の一部を改正する法律」と義務教育諸学校で教育職員が児童生徒に特定の政党を支持させたり反対させたりするような教育や煽動を禁止した「義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法」のいわゆる「教育二法」が成立しました。
さらに教育委員会に党派的対立が持ち込まれる弊害を解消するため、昭和31年に教育委員の公選制が廃止され、代わりに任命制が導入されます。さらに昭和31年愛媛県教育委員会が教員に勤務評定を実施し,翌年文部省がこの全国実施を決め、それにブチ切れた日本教職員組合がいわゆる勤評闘争を引き起こします(昭和33年)。
はたまた昭和36年から中学での全国一斉学力調査は悉皆調査化となり、北海道旭川市の市立永山中学校で起こった実力阻止による公務執行妨害事件は、最高裁まで争われることになります。

この学習指導要領の法的拘束力も、以上のような文部省による統制強化の一環と考える向きがあります。




中学校学習指導要領   第2章 各教科   第4節 理科

33年版では、中学校理科の授業時数は各学年とも140となり、内容は次のような感じです。

〔第1学年〕
 A 第1分野
(1) 水と空気を中心として,固体・液体・気体の基本的な性質および化合物・単体,元素・原子などの概念について指導する。
(2) 燃焼によって起る化学変化とその表わし方および熱によって温度上昇,熱膨張,状態の変化などが起ることを指導する。
 B 第2分野
(1) 生物は,環境の影響を受け,環境に適応し,また,相互につながりをもって生きていることについて指導する。
(2) 生物にはいろいろの種類があり,それぞれ形態上の特徴をもっているが,すべてそのからだは細胞からできていることについて指導する。
(3) 地表が水や空気などによって変化することや,地かくには地震や火山活動が起ったり,隆起・沈降,しゅう曲,断層などの現象がみられることを指導する。
(4)地かくを構成しているおもな岩石・鉱物の特徴や成因について指導する。

〔第2学年〕
A 第1分野
(1) 酸・アルカリ・塩の化学的な関係を,それぞれの代表的な物質について指導する。
(2) 力と仕事についての基本的な性質,および動力を伝える方法,物が力によって変形することなどを指導する。
(3) 音が波であること,および音の波としての性質について指導する。
(4) 電流の強さと電圧・抵抗との関係および電流の熱作用や化学作用について指導する。
B 第2分野
(1) 気象現象について,その変化の様子や原因および日本の天気の特徴を指導する。
(2) 植物の各器官は,それぞれ特有の組織をもち,決まったはたらきを営むことを指導する。
(3) 人体のおもな器官の構造とはたらきや,体内における物質の変化について指導し,あわせて他のおもな動物の器官のはたらきを指導する。

〔第3学年〕
 A 第1分野
(1) 光が直進し,物の境界面で反射・屈折すること,および光の色や物体の色について指導する。
(2) おもな気体の性質,沈殿の生成,酸化と還元などの化学変化について指導する。
(3) 電流と磁界との関係および交流と直流の性質の違いについて指導する。
(4) 落下の速さの変化,力と運動の関係およびエネルギーの概念について指導する。
(5) 電波が受信できること,および原子の構造の大要について指導する。
 B 第2分野
(1) 生物のいろいろなふえ方および遺伝のしくみとその利用について指導する。
(2) 化石や地質構造からわかった地質時代の変遷,生物進化の事実とその説明および生物の系統と自然分類について指導する。
(3) 地球の表面と内部構造,地球と月の運動および太陽系と恒星について指導する。
(4) 生物の利用と保護,天然資源が化学工業によって加工・利用されていること,およびエネルギー資源とその利用について指導する。


皆さんお気づきだと思いますが、昭和33年度から中学校理科はおなじみの2分野制が敷かれます。
この時の改訂の方針として

内容に系統性をもたせ、2分野、たとえば「物理、化学的内容を主とするもの」と「生物、地学的内容を主とするもの」を設け、物理、化学的内容の学習に今までより重点をおくこと。(小学校・中学校の教育課程の改善について(答申)昭和33年3月15日)

というのがあり、それに基づいたものです。今でこそ中学理科では1分野・2分野どころか物化生地の4領域がバランスよく単元配列がなされていますが、もともとは1分野偏重だったのですね。高校の単位数を見てもわかりますが。。。

教科書を見てみました。
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A・Bという表記はありますが「第1分野」「第2分野」みたいな言い方は書かれていません。

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清水書院の教科書。実験も充実しており、1年生で「サイホンのはたらきを調べる」とか「硝酸銀・ネスラー試薬で水を検査する」とかあります。ネスラー試薬とはアンモニアガスやアンモニウムイオンの検出、定量に用いられる試薬ですが、水銀を含む医薬用外毒物です。もちろん、そんな怖いもの今どき中学校の置いていませんよ、ふつう。



さらっとですが高校の方も見ておきましょう。
昭和31年に学習指導要領が一部改正(一般編昭和31年改訂版一般編昭和31年12月再改訂版理科編改訂版昭和33年4月再訂版)され、理科は物理・化学・生物・地学それぞれ3単位(105)または5単位(175)で、4科目のうち,2科目はすべての生徒に履修させる「選択必修」でした。

その後昭和35年に、小中に2年遅れで昭和35年10月施行の学習指導要領が告示、理科では

ア 「物理A」3単位または「物理B」5単位
イ 「化学A」3単位または「化学B」4単位
ウ 「生物」4単位 ただし,特別の事情がある場合には,3単位とすることができる。
エ 「地学」2単位

とあるなか、すべての生徒に2科目選択必修、普通科に至っては上のアイウエ全部必修。
ちなみに、普通科のみとはいえ、高校で地学が単独の科目として(「理科I」や「理科総合B」みたいな複合科目ではなく)必修だったのはこの時のみです。
昔私が新採だったころ、地学教育のシンポジウムに参加したとき、演者の先生がこの時代のことを「高校地学の黄金時代」と仰っておりました。



Check It Out!

戸澤幾子 「全国学力調査」をめぐる議論 レファレンス 2009.5 pp.6-58
学力調査についての歴史や論点がよくわかる。

中村敦雄 昭和31年度文部省全国学力調査とその波及効果に関する検討 群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編 第 60巻 1―23頁 2011
昭和30年代の学力テストについての詳細がわかる文献。中身は国語についてですが…。
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