【理科教育法】学習指導要領の変遷 (1) 昭和22年試案

GHQ(連合国軍総司令部)の指示により、昭和22(1947)年3月20日に学習指導要領一般編を配布し、続いて各教科別の学習指導要領が作られました。

終戦が昭和20(1945)年8月15日。9月に、文部省は「新日本建設の教育方針」を示してこれを教育改革の出発点とします。それからいろいろあるけど、教育刷新委員会が審議を始めたのが昭和21(1946)年9月。この委員会でさまざまな教育政策がだされたので、指導要領をつくろう、という話が出たのもこれ以降のはず。

で、も一度確認するけど学習指導要領一般編は昭和22(1947)年3月20日に配布されたわけですから、どんなに長くても学習指導要領一般編の編纂にかけることのできた時間は長くて半年ということになります。各教科別の指導要領もこの後に、例えば理科編は5月に出されたのですが、2か月時間が長くても焼け石に水でしょう。

現在、学習指導要領の改訂については、文科省のサイトに学習指導要領ができるまでというチャートがあります。文部科学大臣による中央教育審議会への審議要請から、として「学習指導要領の見直しに当たっての検討課題」という資料が出されたのが平成17年 2月、中央教育審議会答申が平成20年1月、新学習指導要領が出てくるのが平成20年3月と3年間かかっています。改訂でもこんなにかかるのに、どうして昭和22年試案は半年でイチから作ることができたのか。

その疑問を持つと昭和22年試案への理解が深まるんではないかと思います。



学習指導要領 昭和22年試案

1.児童中心主義 ~連合国のご意向~

半年という短期間でイチから作ることができたのは、やはり何か参考にするモデルの存在が必要です。日本人だけでイチから作ろうとすると、軍国主義的な教育思潮が残っている戦前教育体制をモデルにして作ってしまう。それは「修身」・「公民」・「地理」・「歴史」に代わって、「社会科」を新設させてしまうようなGHQにとって好ましくないわけです。

なのでアメリカのCourse of studyを参考にしてすすめていきます。それはデューイの子ども中心主義・経験主義の教育観の影響をもたらし、特に1943年の改訂版のバージニア・プランは、社会科の学習指導要領に多大な影響を与えました。

学習指導要領 一般編でも、わざわざ「第二章 児童の生活」と一つの章をつくっています。そこの「一 なぜ児童の生活を知らなくてはならないか」に

このような目標に向かって行く場合,その出発点となるのは,児童の現実の生活であり,またのびて行くのは児童みずからでなくてはならないということである。このことを忘れて,ただ目標にばかり目をうばわれていると,教育はからまわりすることになり,形式的になって,ほんとうに目標とするところに達しがたい。そこでわれわれは児童の現実の生活を知り,その動き方を知って,教育の出発点やその方法をこれに即して考えて行かなくてはならないのである。

と力説して、「二 年齢による児童生活の発達」では「極めて,簡単に学年別の特色をのべるにとどめたい」と書きながら

(四)第七,八,九学年生徒 12-15歳
1.身体的
 (1)身長の増加は5-6c.m.で最も著しい。ただし女子では増加はややとまって来る。体重の増加も著しく,毎年3-5k.g.に及ぶ。最も著しいのは女子の12-13歳で男子では13-14歳である。
 (2)内臓が急に発達する。
 (3)いろいろな運動能力も発達が著しい。
 (4)女子の初経は普通14歳と15歳の間にあらわれる。
2.精神的
 (1)男子は大体14-15歳で,女子は大体13歳-14歳で青年期の特徴があらわれ,論理的抽象的な思考が発達する。
 (2)自我意識がはっきりして来る。反抗的傾向が出て来る。
 (3)情緒があらわれやすくなり,激しくなる。
 (4)相互援助の関係で友達ができる。
 (5)交友関係は深くなり,親友ができるようになる。
 (6)性意識がだんだん目覚めて来る。
 (7)興味を持つおもな遊び,
  (男)野球。すもう。スキー。水泳。映画。ラジオ
  (女)ピンポン。水泳。映画。ラジオ。お話会など。
 (8)男子では冒険小説,少年小説を読むが,伝記,講談,ユ-モア小説などをも読む。女子では少女小説が多く読まれる。
 (9)勤労としては,女子は炊事のほか家業の手伝いが著しく,男子は家業の手伝いが著しい。

と、結構細かいところまで書いています。

また、「第四章 学習指導法の一般」においても「教師が独りよがりにしゃべりたてればそれでよろしいと考えたり,教師が教えさえすればそれが指導だと考えるような,教師中心の考え方は,この際すっかり捨ててしまわなければなるまい。」と断言し、「ほんとうの知識,ほんとうの技能は,児童や青年が自分でたてた目的から出た要求を満足させようとする活動からでなければ,できて来ないということを知って,そこから指導法を工夫しなくてはならないのである」と述べています。

教育課程から見ると、児童中心主義は、児童の個性の赴くところに従って,それを伸ばして行くことに用いる「自由研究」の時間が新設されているところに現れています。ただ、現在イメージされる「自由研究」とはその範囲が違っていて、今でいう「クラブ活動」や学級での当番や委員としての仕事をすることもこの時間の用い方の一つとされています。

その他、教育課程の特徴としては、小学校5・6年で男女共修の家庭科(それまでは「家事科」という名称だった)を、中学校で職業科(家庭科も職業科の一つの科目だった)を設置したことがあります。さらに中学校では外国語や自由研究などが選択科目として置かれました。そして、先にも触れましたが「修身」・「公民」・「地理」・「歴史」に代わって、「社会科」が誕生したのです。ちなみに、1単位時間は特に固定していません。これは児童中心主義のあらわれか、それとも決める時間がなかったのか…。

私見ですが、本当の目的は戦前の画一的な教育を一掃することで、その手段としてたまたまそのときアメリカで主流だった児童中心主義に白羽の矢が立ったようにも思えます。児童中心主義がいいか悪いかという問題ではなくて。(※個人の感想です)


2.「試案」という立ち位置 ~これからの教育を創る~

短期間にアメリカの資料を基につくったということは、日本の教師など関係者の意見を聴いて反映させる時間はなかったでしょう。そのため学校の実情にそぐわない部分が出てくることは、実際にこの指導要領を使ってみた結果始めて気がついたのではなく、おそらくは指導要領作成中に予見していたのではないでしょうか(ここは推測)。

それを裏付ける資料として、一般編の序論において

これまでもしばしば述べたように,この書は不完全ではあっても,このようなことについての現場の研究の手びきとなることを志したのであって,その完成は今後全国の教師各位の協力にまたなくてはならない。そのために別に現場の経験や意見を報告していただく報告票を刊行することになている。各位はこれによって本書の改訂に協力していただきたい。この幼い研究の手引きが,各位の協力によって将来健康に成長することを確信して,この書をお手もとにとどける。切に熱心な研究と協力とを望む次第である。

とあります。

つまりこの指導要領は完成したものではなく、まだまだ改善されることを前提とした「試案」にすぎない、と言っているわけですが、みんなの意見を集めて改訂していくことから、「これからみんなで日本の教育を作り上げていこうぜ!」みたいな胸の熱くなるメッセージのようにも思えます。

実際に、昭和26(1951)年に、改訂が行われました。



理科編について

 まずは国研の学習指導要領データベースをつかって、現在の中学校に該当する、第七学年から第九学年の単元を拾ってみましょう。

第七学年の理科指導
単元一 空気はどのようにはたらいているか。
単元二 水はどのように大切か。
単元三 火をどのように使ったらよいか。
単元四 何をどれだけ食べたらよいか。
単元五 草や木はどのようにして生きているか。
単元六 動物は人の生活にどんなに役に立っているか。

第八学年の理科指導
単元一 着物は何からつくるか。
単元二 からだはどんなに働いているか。
単元三 海をどのように利用しているか。
単元四 土はどのようにしてできたか。
単元五 地下の資源をどのように利用しているか。
単元六 家はどのようにしてできるか。

第九学年の理科指導
単元一 星は日常生活にどんな関係があるか。
単元二 機繊を使うと仕事はどんなにはかどるか。
単元三 電気はどのように役立っているか。
単元四 交通・通信機関はどれだけ生活を豊かにしているか。
単元五 人と微生物とのたたかい。
単元六 生活はどう改めたらよいか。


えらく経験というか、生活や社会とのかかわりを意識していることがわかります。子どもの生活を通して学習する「生活単元学習」が取り入れられていたのです。では、もう少し詳しく、一つの単元をとりあげてみましょう。

 単元一 空気はどのようにはたらいているか。
 (一) 指導目標
 日常生活に必要な空気の性質,生物の呼吸や大気中に起こる現象を理解し,それを活用して気象の変化に適切な処理をする能力と科学的な態度を養う。
 (二) 指導方法――児童の活動
1,人・動物の呼吸について実験し,観察する。
2,種子の呼吸について実験する。
3,花や葉の呼吸について実験する。
4,燃焼の実験をする。
5,呼吸に関する保健の問題について話しあう。
6,空気の不可入性について話しあい,重さのあることを実験する。
7,空気の重さを測定する。
8,温度計を使用することから温度とはどんなものかを考え,また物質の膨張について研究する。
9,温度の標準点としての融点・沸点の実験をする。そして物質の気・液・固の三態について話しあいをする。
10,気圧を測る実験をする。
11,気圧を利用した道具を使用して,それがどんな理によるものかを考える。そして真空について話しあいをする。
12,湿度を測る実験をする。物を乾燥すること・湿りを防ぐことについて調べる。
13,郷土の気象を観測する。
14,各地の気象記録を調査する。
15,気象の変化・風・雨・雪などはどうして起こるかについて話しあう。
16,観側記録の整理をし,互に話しあって評価する。
17,気象台の仕事を調べる。
18,測候所などを見学する。
19,ラジオ・新聞などの天気概況・天気予報について研究する。
20,風水害・かん害(早害)・雪害・霜害などの防止対策について話しあう。

 (三) 指導結果の考査 (略)


子どもの立場で見てみると、やってみたくなりそうな活動ですね。学ぶ意義などもばっちりな感じもします。

半面、自然科学の原理・法則などの本質や基礎的学習がないままに内容の多い体験活動を非系統的に行うやり方は、基礎学力の低下を招き、「這い回る経験主義」などと揶揄されることになりました。

似た話は以前もしましたが、経験だけでは学んだことにはならない、経験を学びに変えるための指導は必要なのですね。その役割を担い、さらに経験してないものに対しても応用を利かせるのが、系統だった基礎・基本の学習なのでしょう。

経験主義は総合的な学習の時間や小学校の生活科などで深くかかわっていますが、経験を学びに変えるような指導をすることで「這い回る経験主義」から脱することはできます。ところが困ったことにいまだに「経験主義(笑)=這い回る」と短絡的に考える人も今もいますし、さらに困ったことにそんな期待?に応えてしまう「経験だけ主義」の教育活動も残念ながらないわけではないのです。。。



Check It Out!

○文部省編 学制百年史  帝国地方行政学会 1972

○古賀 範理、『学習指導要領 一般編(試案)』の作成経緯について,久留米大学外国語教育研究所紀要 7, 1-17, 2000-03
はじめての学習指導要領が、終戦直後のさなか、GHQの支配下、どのような経緯でつくられたかがわかります。

昭和二十年勅令第五百四十二号「ポツダム」宣言受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件ニ発スル命令ニ関スル件ニ基キ国民学校ニ於テ使用スル教科用図書ノ提出ニ関スル件
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「GHQに指令されたんで国民学校時代の修身、国史、地理の教科書を回収することにします!」という文書。徹底して終戦前の教育を排除したいというGHQの強い気持ちが垣間見れます。

小学校四年理科教科書の発行及び取扱について
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昭和23年3月に「4年生の理科の教科書の発行が授業に間に合わない!なので掲載する予定の単元名を教えるから、前の通達なんかもみてうまく切り抜けてね」という趣旨の通達。いろいろ大変ですね。。。



おまけ: 小学校は「教授要目」で中学校は「教授細目」?

結構多くの教員採用試験対策関連のサイトで、学習指導要領は、「教授要目」(小学校)や「教授細目」(中学校)に代わるものとされています。
 ところが文部省(当時)の「学制百年史」によると、小学校では

 この教則大綱で注目すべきことは、第二十条に「小学校長若クハ首席教員ハ小学校教則二従ヒ其小学校二於テ教授スヘキ各教科目ノ教授細目ヲ定ムヘシ」と規定したことである。これによって各学校は地域の実情に即応して「教授細目」を定めることとなった。


と、「小学校教則大綱」で「教授細目」の作成が規定されさており、中学校では

明治三十五年二月六日「中学校教授要目」が制定された。この教授要目は「要目実施上ノ注意」と各学科の教授要目から成り立っており、後者は各学科目の教授項目別の学年別配列と「教授上ノ注意」から構成してある。この要目を国家基準として示し、地方長官は各中学校長に対して要目に準拠した教授細目を作成させることを求めている。


と「中学校教授要目」で「教授細目」の作成が規定されさています。

ちなみに「小学校教授要目」というものを探してみましたが、「小学校武道指導要目」とか「秋田県小学校体操科教授要目」など体育系のものしか見つかりませんでした。

もしかしたら、誰かが書いた誤解した記述を多くの人がコピペうわなにをするやめrくぁwせdrftgyふじこlp
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