多摩動物公園 2017.9 30年連続コウノトリたん生の記録(後編)

飼育と繁殖のための七つ道具

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えさを運ぶバケツ
えさはバケツに入れて調理場から飼育ケージまで運びます。ありふれた道具ですが、毎日の作業になくてはならないものです。
重要なのはバケツの中身、えさです。コウノトリのえさはシシャモやイワシ、サバなどを今まで試してきましたが、痛みやすい、コウノトリに好まれないなどの問題がありました。現在は、鮮魚で手に入りやすく、コウノトリにも 好まれるアジをメインに、冷凍で安定的に手に入るワカサギを一緒に与えています。 繁殖期には特別に生きたドジョウを与えます。栄養価の高いドジョウを与えることで、オスメスのやる気につながることや、ヒナの成長がよくなること がわかっています。


捕まえるための熊手
別のケージへ移動するため、けがの治療をするため、また、年に一度実施するすべての個体の健康状態のチェックの ため…。飼育をしているとさまさまな理由でコウノ トリを捕まえなければいけません。 コウノトリを捕まえるときに活躍するのが熊手です。コ ウノトリが飛び上がらないように、なるべく熊手を高くかかげながら近づき、タイミングを見て、いっきにくちばしをつかみ、体をおさえて捕まえるのです。熊手を使わずに、気がつけばコウノトリを抱いているという「すごわざ」を持つベテラン職員もいます。


健康を守る手網
健康を守る 手網
コウノトリが食べ残したえさの魚をすくうのが、 釣具屋などで売られている手網です。
魚は水を入れた小さなプール(水場)に入れますが、魚の脂で汚れた水がコウノトリの体につ くと、羽毛の水はじきが悪くなり病気になって しまいます。残ったえさをしっかりとすくうことが大事です。
また、残ったえさの量は、毎日きちんと確認し、 えさの量を調整します。季節や健康状態で食べる量が変化するため、それにあわせてえさの量も変える必要があるのです。
水場にも工夫があります。体が脂で汚れない ように深さを加滅した り、脂がたまらないよ うに水をかけ流しにするなどしています。


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見分けるためのカラーリング(足環)
力ラーリングとは塩ビ板を丸めて作った輪で、鳥を 1羽1羽見分けるためにあしに装着します。コウノ トリの飼育をはじめた当初は単色のリングで識別し ていました。過去の記録にも個体それぞれを表すの に「ク口」、「キイ口」といったリングの色が使われています。
合計で50羽以上ものコウノトリを飼育している現在 は、リングの色をさまざまに組み合わせて左右のあしに装着し、一目で見分けられるようにしています。
他にも、番号の記されたアルミ環、皮下に入れたマ イクロチップなどでなど個体を管理しています。 1羽ごとに作られる個体カード(戸籍のようなもの) は、飼育動物の血統や血縁を管理する上で欠かせな いものです。
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計画的な繁殖をささえる擬卵
擬卵とは本物の卵に大きさや重さを似せて樹脂で作ったニセモノの卵です。親は卵を抱いてあたため ますが、場合によっては巣から落ちてしまったり、割れてしまったり、雨で巣の中がぬれて発生が中止したりすることがあります。これらのリスクを減らすために、本物の卵を擬卵と交換し、ふ卵器であた ため、ふ化直前に親へ戻すことで、より確実に卵をふ化させることができました。
コウノトリの飼育数が少なかったころは、より多くのヒナを育てる目的で、このように擬卵を使ったのです。
現在ではコウノトリの飼育数も安定し、さまざまな血統の個体を残していくことが重要となっています。 その取り組みのーつが飼育施設間での有精卵の移動 です。擬卵は卵を輸送している間のつなぎとして抱いてもらったり、抱卵期間を調整するために使用されています。
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いろいろと活躍する剪定ばさみ
■風切り羽を切る(仮切り)
園内のストックエリアと呼ばれる大型の ケージでは、現在40 羽以上のコウノトリを飼育しています。コウノトリが何かに驚いて急に飛び立つと、けがや事故のも とになることもあるため、年に一回、つ ばさの風切り羽を切ります。片方のつばさの風切り羽を切ることで、羽ばたいてもバランスがとれずうまく飛べなくなり ます。仮切りをしても、一年で換羽し、 再び飛べるようになります。
■巣材を切る
繁殖期になるとコウノトリは巣を作るた めの巣材の枝を運ぶようになります。卵 がふ化し、ヒナが無事に育つ快適な巣を 作ってもらうため、飼育係が枝を選び、 ケージに入れます。枝にとがった部分があると、卵に穴が開いてしまう危険性があるため、勇定ばさみで枝をキレイに整えます。
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卵を運ぶ携帯用ふ卵器
ふ卵器はコウノトリの繁殖を支える大事な道具です が、ここでは卵の輸送に使う携帯用ふ卵器を紹介しましょう。
卵は発生途中で冷えてしまうと死んでしまいます。 輸送中も一定の温度であたためなくてはいけません。 そこで活躍するのが携帯用ふ卵器です。下の記事にあるように多摩動物公園が専門業者と一緒に開発しました。通常のふ卵器を小型化し、電源もAC アダプター、車のシガーソケット、充電池といろいろな場所で使えるように改良しました。飛行機にも持ち込めるように、充電池はパソコンのバッテリーと同じものを使っています。
卵を運ぶことは成鳥を運ぶよりも生体へのストレス が少なく、輸送費も安くすむため、携帯用ふ卵器は コウノトリだけでなくニホンライチョウやニホンイヌワシなど希少鳥類の卵の輸送にも活躍しています。
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双眼鏡とノート
日々の観察はどんな動物でも飼育の基本となります。警戒心が強(、近づくことが難しい%動物の場合は、離れたところから観察する必要があるため双眼鏡は必需品です。そして観察の結果はノートに記録します。
コウノトリの飼育においても観察は重要です。とくにオスメスのペアリングや繁殖かうまくいかなかった頃Iよ、コウノトリの行動から少しでもヒントを 見つけようと、綿密な観察が行われていました。専任のアルバイトを雇い、一日中観察を続けることもありました。(とくにペアの相性があわないと、け んかをし、ときに殺してしまうこともあるので、集中して観察し、何かあっ たらすくにi也の職員に応援を頼めるように無線機を備えていたそうです。
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コウノトリのこれから

日本の空にもどったコウノトリ
1988年、多摩動物公園でコウノトリが繁殖した翌年には兵庫県立コウノトリの郷公園でも繁殖に成功し、その後、飼育下の個体数は順調に増えていきました。そしてコウノトリの郷公園での飼育数が100羽を 越えるようになった2005年には、はじめてコウノトリが野外へと放鳥されました。2007年には国内で43年ぶりに野外でヒナがふ化しました。
兵庫県での取り組みに続き、2015年には千葉県野田市、福井県越前市でも放鳥がはじまったのです。

放鳥されたコウノトリは?
野外に故されたすべての個体および野外で繁殖したコウノトリには番号入りの力ラーリングが、また、一部の個体に1よ位置憤報のわかる追跡装置(PTT : Platform Transmitter Termtnal)がつけられています。
足環で個体識別することで、野外で繁殖した場合にも、どの個体の子どもかといった情報から血統管理が可能となります。また、PTTで得られた位置データはコウノトリがどのような環境を好むのか 、とのような行動圏を持つのかなど、科学的な知見を得るのに役立ちます。
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コウノトリがすめる 環境づくり
コウノトリを野生に復帰させるには、コウノトリのすめる環境を守っていかなくてはなりません。それには地域の方々の協力が不可欠です。放鳥を行っている兵庫県豊岡市、千葉県野田市、 福井県越前市などでは、コウノトリのえさとなる生き物がすめるように、農薬の使用を減らす、田んぼに水を出し入れする時期に配慮するといった農業が行われています。このような農法により生産されたお米や野菜はコウノトリにやさしい農産物としてブランド化し販売され、地域振興にも役立っています。また、 魚道や浅瀬をつ<るといった河川の整備により、コウノトリに 適した環境をつくる取り組みもはじまっています。


多摩動物公園の役割
コウノトリに関連する大学・地方自治体・動物園で、”コウノトリの個体群管理に関する機関・施設間パネル(IPPM-OWS)”という組織をつくり、みんなで協力して保全に取り組んでいます。
多摩動物公園はその中でもコウノトリの郷公園についで飼育個体数の多い施設であり、ペアを作って他の施設に供給したり、放鳥するコウノトリの血統に配慮して選んだペアの卵を、放鳥拠点に堤供するなどの役割をになっています。

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多摩動物公園 2017.9 30年連続コウノトリたん生の記録(前編)

多摩動物公園のウオッチングセンターで、「30年連続 コウノトリたん生の記録」の展示が行われていました。
パネルが主ですが、標本や実物も展示されていて、見ごたえがありました。

コウノトリはかつては日本の空を飛んでいましたが、数を減らしていき、1971年、日本から野生のコウノトリは姿を消します。
多摩動物公園は、1988年飼育下での繁殖に日本で初めて成功し、それ以来30年間、ひなの誕生を見守ってきています。
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日本の空から姿を消したコウノトリ

人のくらしの近くにいた コウノトリ
コウノトリはつばさを広げると2m、体重が4-6 kgにもなる大 型の鳥です。川や湿地、池沼がある環境にくらし、長いくちばしを使って魚や力エル、昆虫などを捕えて食べます。マツ林などをねぐらとし、 高い木の上に作った巣に2 -5個の卵を産みます。 かつて田んぼやため池、川などの身近な水辺で、コウノトリはふつ うに見られる鳥でした。高い木の上に巣を作る習性をもつコウノト リは、寺院の屋根にも巣を作ったという記録があります。人のくら しの近くにコウノトリはいたのです。

なぜ、コウノトリはいなくなったのか
コウノトリが数を減らし日本の空から姿を消すまでには、人間との関わりのなかで3つの大きな転拶期があリました。
(1)明治初期の乱獲
(2)第二次世界大戦中に行われた、コウノトリの営巣地となる松の伐採
(3)高度成長期の田んぼの変化と農薬の使用
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1988年に多摩動物公園ではじめてヒナをかえしたニホンコウノトリの個体の骨格標本
1985/6/18ハルピン動物園より来園 カラーリング 黄色
メス 誕生日不明 1999/7/2死亡 
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コウノトリ繁殖の道のり1
繁殖に向けた飼育のはじまり(1972年)
多摩動物公園でコウノトリの飼育と繁殖に取り組むためには、農薬の影響をうけていない個体を入れる必要があリました。そこで、1972年と1977年の2回にわたり、中国の北京動物園からオスメスのペア、合計4羽のコウノトリが来園しました。 また、国内の野生のコウノトリは1971年を最後にいなくなりましたが、冬になると中国東北部や口シア極東からコウノトリが迷鳥として飛来することがありました。そのうちの衰弱した個体が保護され、多摩動物公園にやってきました。そして繁敏へ の取り組みがはじまったのです。

はじめての産卵(1979年)
コウノトリを飼育するにあたり参考にした近縁種のシュバシコウでは、オスメスの同居はそれほど難しく ありませんでした。しかし、コウノトリは相性が悪いとつつき合って、相手を殺してLまうこともあります。 そのため、オスメスの同居の時間を少しずつ長くしていき、相性を見極めてペアをつくりました。 その結果、1979年に多摩動物公園て初めて礼文島保護(オス)×北京(メス) のベアか産卵しました。

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コウノトリ繁殖の道のり2
無精卵しか産まない(1979 年~1987 年)
1982年から7年の間、毎年同じペア(礼文島×北京)が産卵しましたが、検卵(光をあてて卵の中を確認する)した卵はすべて無精卵でした。 このペアは相性がよく、巣作りや抱卵行動には問題がなかったので、当時の飼育職員はなんとか原因を 突き止めようと、観察を続けました。そして、それまで行っていたつばさの「せん翼」(つばさの先端を切って、飛べなくする処置)をやめたのです。せん翼は、コウノトリがケージの中で突然飛び、柵や天井に激突するのを防ぐためでした。しかし、これによりオスが交尾のとき、はばたきながら、メスの背中の上でうまくバランスをとることができず、それが無精卵の原因になると推測したのです。

ついにヒナがたん生!(1988年)
試行錯誤のすえ、ついに多摩動物公園でヒナが誕生しま した。これは、国内初の快挙となりました。ペアは、1985年にハルビン動物園から来園した個体です。産卵し たのは4卵でそのうち3羽がふ化、2羽が順調に生育し、 6月に巣立ちをしました。

連続繁殖!人工育すうの試み(1989年)
次の年も同じペア(ハルビン×ハルビン)から4羽のヒナがふ化しました。経験により、親が3羽以上を育てるのは難しいと考え、 2羽を人工育すう(親から離して、人の手で育てる)をすること にしました。人間を親だと勘違いする「刷り込み」をなるべく防ぐために、ちょうど同時期にふ化したシュバシコウのヒナと一緒 に育てることにしました。

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コウノトリ繁殖の道のり3
新たなペアのヒナがふ化集団お見合へ(1990年)
2年連続でヒナを育てたハルビンのペアとは別のペアから4羽のヒナが生まれまし た。多摩動物公園で2系統目のヒナがたん生したのです。そこで、系統の違う子どもたちの間で「集団見合い」をさせることにしました。まだ繁殖できる年齢にはなっていないため激しい争いもなく、この若い個体の「集団見合い」により新たに2つ のペアを作ることができました。

繁殖計画がはじまる(1990年)
1990年、コウノトリが日本動物園水族館協会の血統登録種となり、異なる血統のペアをもとに繁殖させるという計画がはじまりました。そして、飼育施設間での移動もさかんに行われるようになりました。血統登録台帳が作成され、それによると、 1990年12月末時点で、コウノトリを飼育している施設は8施設あり飼育個体数は合計で51羽でした。

コウノトリの繁殖に向けた国際協力(1992年~)
多摩動物公園での繁殖が軌道にのり、コウノトリの繁殖飼育に意欲のある海外の動物園や研究施設との協力関係が始まりました。1992年にはアメリカサンデイエコ動物園にベアを、1995年にドイツのべルリン動物園にメス2羽を、韓国国立教育大学に有精卵を4個送りました。

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巣台の高さ
野生のコウノトリは高い木の上に巣をつくりますが、動物園では1~2mの高さに巣台を設置しています。
多くの場合、交尾は巣台の上で行います。

巣に使う材料(巣材)
20~40cmの長さに切った枝を使います。卵に穴が開かないよう、とがった枝は切りおとします。
1月ごろになると、ペアに発情行動が見られるようになります。飼育係は巣の材料を少しだけケージに入れます。親が巣材を巣台に運び始めるのに合わせて、入れる巣材の量を増やしていきます。巣の形が整ってきたら、落ち葉などの柔らかい巣材も入れます。親鳥はヒナがふ化した後も、巣をきれいに保つために巣材を運ぶので、巣材の補充を続けます。
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ビデオモニターもありました。
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後編に続く。
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