田中圭一 「うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」

今年度あたり、ぼちぼち自分が危ないかな、という気がしています。
いろいろ仕事が量的に増えただけでなく、質的にも変化して、外から見たイメージ通りに飄々とやってられなくなってきました。特にメンタル面。

残業時間も過労死ラインをあっさり突破し、自分の心と体が逃避し、拒絶して止まっていく、壊れていくような違和感をひしひしと感じながら、「あ~やばいな~、ぼちぼちかな~」と思ったところで、なんとか夏休みにこぎつけた次第です。

と、すっかり愚痴ってしまいましたが、夏休みで多少余裕のある間に危機回避のために読んでみたのがこちらです。
たぶん「真っ最中」の時期は、読んでも入ってこないし、そもそも読もうという発想が出てこないだろうからね。

田中圭一 「うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」KADOKAWA、2017
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「うつヌケ」。著者であるサラリーマン兼業漫画家の田中圭一と、うつとは無縁のアシスタントの「カネコ」が、うつヌケした人をゲストに迎えて体験談を伺うという基本パターンで、全20話あります。最初の3話は著者である田中圭一自身の話で、4話から以降のいろいろなタイプのゲスト(どっかで聞いたことのある有名人も含む)が登場し、最後の20話で総まとめとなります。

ちなみに、著者が漫画家ということで漫画で描かれているのですが、普段はギャグマンガが中心だそうです。人を笑わせる仕事をしながらその裏でうつ病に悩んでいた-といえば、桂枝雀が思い出されますが、さて、この著者はうつに悩まされながらどんなギャグマンガを描いていたのかは、一度読んでみたいところです。

一応まだセーフである(と思っている)身としては、それぞれのゲストの方が鬱に陥っていくストーリーが、あるあるどころか「おま俺」でつらかったです。いくつかあげてみましょう。

・心の奥底にある「こんな仕事は自分には向いていない」-という思いにフタをして もっとがんばらねば-と自分のハードルを上げてしまった(p.7)
・なんとしてもやりとげなければ-という強迫観念にとらわれ 周囲の人が差しのべてくれたであろう手助けに気づくことなく 無理を重ねて自分を壊して(p.28)
・もともとネガティブ志向の人だったので「こんなすごい状況がずっと続くわけない!!ダメになったらどうしよう 怖い怖い怖い怖い」(p.44)
・この「小さなジャブのようなダメ出し」は気がつかないうちにじわじわと効いてきて いつしか私は暗いトンネルに踏み入ってしまいました(p.59)
・山のように降ってくる仕事 ミスが増えて責められる日々… 睡眠不足も手伝って ついに すべて私がいけないんだ!私がダメだから!私が-ッ!(p.109)


この部分を拾い出して一気読みするだけで自分の体験と重なり「あああああ」という感じです。

で、うつヌケと深く関係するのが「仕事」で、仕事を辞めることがうつヌケの一つのステップになる人がいた一方、仕事が支えになった人もいます。これは仕事が自分を否定するものだったら遠ざかり、肯定するものだったら近づこう、というわけですが、自分の場合、今の仕事の具体的な内容が多岐にわたり、肯定するものと否定するものが混在しているとからまたタチが悪いのです。いやもちろん自分を否定しようが、そういう仕事の重要性はわかっているつもりだし、だからこそ自分の気持ちにふたをしてやっているんですけどね。

ま、最近は否定するものが増え、疲弊することによって肯定するものに時間がかけられず、そちらのクオリティが下がるのを目の当たりにしてまた落ち込むというパターンが続いております。
それで動作の遅いパソコンなどを操作していると、以前はその遅さにいらだっていたのですが、「お前も本当は能力があるんだけど、本質的ではない処理を大量にやらされて肝心のアウトプットに十分手が回らないんだろうな~」とそこに自分の姿を重ねて同情してしまう今日この頃です。

これはだめかもわからんね。

立川談春「赤めだか」

「赤めだか」についても、そのうち取り上げたいなと。
という文で終わらせた記事を書いたのが2013年4月9日。それからまたあっさりと4年も経ってしまいました。
その間にドラマ化したわ(見てないけど)、文庫版が出たわ(実物を見てないけど)、いろいろあったみたいですが、

ようやくその「赤めだか」をとりあげます。
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一言でいうと、著者である立川談春が天才落語家・立川談志のもとに入門してから二つ目昇進までの日々を描いた随筆です。

特筆すべきところは、談春自身の自分やほかの弟子、そして談志に対する深い洞察、たとえば

あの夜、談々も関西も精一杯落語家であり続けようとしてた。たとえ前座でも、それは虫ケラ同然の身分でも、俺たちは落語家だった。落語家らしく談秋を送ってやろうと。それが談秋への優しさだと思っていたんのだ。辞める、と決断した者へ、ねぎらいの言葉はいらないのだろう。泣くなら、下宿へ戻って、独りで大声を上げればいい。二十七の男が、脱サラして、覚悟を決めて。その覚悟がたった半年で崩れるなんて、本人が一番信じられないだろう。せめて落語家らしく……。(p.56)

これなんかは、まさに志半ばに辞める談秋に対し、あえてそこに触れないというオトナの優しさであり、ここでは落語家という職業人としての意地だけど、ここら辺は高度なデリカシーの世界。

何の確約もない言葉でも、人間はすがりつく時がある。すがりつかないと前に進めないことがある。それを、自分は決断したなどと美化したうえで、現実をみつめることもなく、逃げ道まできちんと用意してしまう弱さがある。(p.80)

こちらは、談志と一触即発で辞めるかどうか考えていたときに、辞めていった談秋の「談春さん、あなたは立派な落語家になってください。あなたならきっとなれる」という言葉を思い出して。


そして談春が畏怖の念をもって接した談志の言葉。

「よく芸は盗むものだと云うがあれは嘘だ。盗む方にもキャリアが必要なんだ。最初は俺が教えた通り覚えればいい。盗めるようになりゃ一人前だ。時間がかかるんだ。教える方に理論がないからそういいいいかげんなことを云うんだ」(p.64)

「盗む方にもキャリアが必要」というのは事実だと思います。ガラクタを盗んでもしょうがない。何が金目のものかを判断するのはまさに盗む側のキャリアです。教育実習をする学生さんが実習前の期間に私の授業を観察するのですが、そのときの記録に斜め上のことばかり書かれていると、特にそう感じます。

「あのな坊や。お前は狸を演じようとして芝居をしている。それは間違っていない。正しい考えな方なんだ。だが君はメロディで語ることができていない、不完全なんだ。それで動き、仕草で演じようとすると、わかりやすく云えば芝居をしようとすると、俺が見ると、見るに堪えないものができあがってしまう。型ができてない者が芝居をすると型なしになる。メチャクチャだ。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる。どうだ、わかるか? 難しすぎるか。結論を云えば型をつくるには稽古しかないんだ。狸という根多程度でメロディが崩れるということは稽古不足だ。語りと仕草が不自然でなく一致するように稽古しろ。いいか、俺はお前を否定しているわけではない。進歩は認めてやる。進歩しているからこそ、チェックするポイントが増えるんだ。もう一度、覚えなおしてこい」(p.72-73)

一言でいうと基本の大事さなんだけれど、一方で多くの基本ができてない人にとって、「型なし」と「型破り」の違いは難しすぎると思うのですよ。危険なことを臆せずできるのは、危険を知り尽くした玄人か、危険を全く知らない素人のどちらかじゃないですが。

「己が努力、行動を起こさず対象となる人間の弱味を口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんです。一緒になって同意してくれる仲間がいれば更に自分は安定する。本来なら相手に並び、抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。しかし人間はなかなかそれができない。嫉妬している方が楽だからな。芸人なんぞそういう輩の固まりみたいなもんだ。だがそんなことで状況は何も変わらない。よく覚えとけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいと云ったところで仕方ない。現実は事実だ。そして現状を理解、分析してみろ。そこにはきっと、何故そうなったかという原因があるんだ。現状を把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う」(p.116)

現実と逃げずに向き合えってことですね。でも、それができないんだよなぁ。にんげんだもの。みつを。

で、最終章の「誰も知らない小さんと談志」は圧巻。
談春が真打になる試験を月1回の会を6ヶ月連続でやって、最後に談志に合否を判定してもらうのだが、その会のゲストに人間国宝の柳家小さん師匠を呼ぼうと考えた。かつて談志は落語協会のあり方に疑問を以て脱会。その落語協会の会長は小さんで、さらに談志の師匠でもあった。小さんは談志を破門。それ以来二人は絶縁状態が続いている-。
しかし、この会をきっかけに談志が小さんに挨拶に行くと言い出す。小さんの弟子であり孫の柳家花緑もそれは無理だという中、談春は小さんに談志が会いたいといっていることを伝える…。(その後どうなったかは本を読んでね)

談春の談志への思い、小さんと談志のお互いへの思い。鳥肌が立つくらいにゾクゾクします。
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